医会沿革医会沿革

当麻酔神経科学講座開講50周年を祝し、本邦麻酔科学黎明期からの重鎮を迎え、栄えある記念祝賀会を開催しました。
(2015年2月1日 メトロポリタンホテル高崎)【ギャラリー】

群馬大学大学院医学系研究科脳神経発達統御学講座麻酔神経科学分野

初代教授 藤田達士 先生

初代教授 藤田達士 先生

第二代教授 後藤文夫 先生

第二代教授 後藤文夫 先生

第三代教授 齋藤 繁 先生

第三代教授 齋藤 繁 先生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室沿革

 昭和39年 9月 群馬大学医学部麻酔学講座開設
 昭和40年 8月 群馬大学医学部附属病院麻酔科外来開設
 昭和41年 4月 初代教授に 藤田達士先生 就任
 昭和46年 4月 群馬大学医学部 高気圧酸素治療室開設
 昭和47年 5月 群馬大学医学部附属病院麻酔科病棟開設
 昭和54年10月 群馬大学医学部附属病院 集中治療部開設
 平成 8年 6月 第2代教授に 後藤文夫先生 就任
 平成19年 4月 第3代教授に 齋藤繁先生 就任

 

群馬大学麻酔学講座 概要

 麻酔の業務は、手術や外傷といった大きな生体侵襲に対して、いかにして体を守り、生体機能を100%復帰させるかということに主眼があります。手術の内容や周術期に要求されるサービスは時代とともに変化してきましたが、基本的なコンセプトは、全科の患者が安全かつ痛みのない状態で手術を受けられるように、外傷や感染から早期に完全復帰できるように、環境整備をすることにあり、この内容は開設当初から一貫しております。麻酔科医は、この目的を達成するために日夜研鑽し、診療とそれに関連した研究活動を進めています。また、手術患者の麻酔管理を主な担当領域として開設された麻酔学教室の業務は、痛みの治療、重症患者管理、高気圧酸素治療などへも幅が広がっています。麻酔の分野は、臨床活動、研究活動の双方において専門化が進み、教室のメンバーもそれぞれの得意分野を臨床、研究の両面から取り組んでいます。
 
 当教室のいわゆる関連病院は現在37施設を数え、それらの病院に勤務している医会現役メンバーは140人以上、OBとして独立されている方を加えると約200人に上ります。年間手術件数が3000例を越える地域の中核病院が多いうえに、全国のセンター病院や、営業内容の特徴から全国的に注目されている病院が多数含まれています。若い麻酔科医からは、短い期間で多様な症例に出会えるということで好評を得ています。もちろん、地域によって医療環境にかなりの差がみられ、地方では医師不足、都心部ではまた別の意味で医師をとりまく環境が厳しくなっているようです。
 医療制度改革にあわせて、各病院で専門性の充実や急性期対応施設の整備が進んでおり、それに合わせて麻酔科医の業務内容も変化しつつあります。病院によっては手術室の麻酔業務と同じくらいの労働力を集中治療業務に振り向けているところがあるかと思えば、ペインクリニック外来が病院の看板になっているところもあります。今後も暫くは病院や医療を取り巻く環境は流動的であろうと予想されますが、医療を必要とする人々がいて、その需要を満たすために我々がいる、という関係には全くかわりはありません。

群馬県内の関連病院

前橋赤十字病院
伊勢崎市民病院
高崎総合医療センター
桐生厚生総合病院
公立富岡総合病院
群馬中央総合病院
公立藤岡総合病院
館林厚生病院
群馬県立心臓血管センター
群馬県立小児医療センター
群馬県立がんセンター
ほか

群馬県外の関連病院

日赤医療センター(東京都)
武蔵野赤十字病院(東京都)
関東労災病院(神奈川県)
済生会宇都宮病院(栃木県)
足利赤十字病院(栃木県)
埼玉県立がんセンター(埼玉県)
亀田総合病院(千葉県)
ほか

 

群馬大学麻酔科 業務の歴史的変遷と現況

 麻酔科の中心的業務は開設当初から一貫して手術麻酔です。手術患者に麻酔をかけ、手術という生体にとって異常な侵襲時に生命と臓器機能を維持し、そして覚醒させるというプロセスは普遍のものですが、そのために使用される薬剤や器具は時代とともに大きく変化してきました。患者の様子を聴診器や水銀血圧計でモニターしながら、エーテルをポタポタ滴下する麻酔が行われていた開設当初の器具は、聴診器を除けばほとんど使われていないのが現状です。その後に登場した揮発性麻酔薬の代表格ハロセンも臨床の場面で目にすることはなくなりました。人工呼吸器がすべての麻酔器に標準装備され、心電図や自動血圧計はもちろんのこと、パルスオキシメーターや呼気ガス分析器も標準的なバイタルサインモニタ―となっています。経食道心エコーで心臓の動きを3次元的に観察しながら麻酔を行うことも今ではごく普通に行われています。薬品の安全性や機器の信頼性は格段に高まり、麻酔が原因の合併症は極めて稀になっています。
 集中治療領域は人工呼吸を必要とする患者の病室として始まったとも言えます。初期の集中治療の発展は人工呼吸器の発展と歩調を合わせてきました。その人工呼吸器も、半導体技術の進歩によって、高精度の計測と即時モード変換が可能となり、バッグ押しの超アナログ的な手感覚から、器械によるデジタル管理に移行しています。また、呼吸管理が安定的に行われるようになると、薬剤や補助循環装置による循環補助、血液濾過透析などによる腎機能補完、血漿交換による肝機能補助なども一般的な治療として行われるようになっていきました。手術室や集中治療室での技術革新により、重症患者の救命率は大きく改善しています。しかしながら、診療における機械依存度の高まりは、生体の状態を直接肌で感じる感覚を大きく鈍らせていることも事実です。皮膚の色や暖かみで末梢循環を評価し、聴診音で肺の広がりや心臓の動きをイメージする能力を、先進機器を使いこなしながらも鈍らせないよう注意する必要があると考えられます。
 ペインクリニックの業務は、手術麻酔で使用する区域麻酔の技術の応用編として発展してきました。体表から触知可能な、あるいは簡単なレントゲン透視で確認可能な骨の突起などをランドマークとして、正確に神経に針を当て、そこに局所麻酔薬や神経破壊薬を注入することで神経の刺激伝導をブロックする、そうした技術を使いこなすことがペインクリニックのほぼすべてと考えられていたようです。薬剤投与は針がうまくさせない場合の逃げ道とすら捉えられたようです。しかし、神経内科や整形外科、あるいは心療内科的なアプローチで慢性の疼痛疾患を捉えていた欧米の疼痛治療との乖離が広がり、また、本邦ペインクリニックから国際的に通用する治療エビデンスがほとんど発信できなかったことから、神経ブロックに主眼をおいたペインクリニックは大きく見直されることになりました。長い目で患者さんが満足する疼痛治療では、薬剤投与やリハビリテーション、認知行動療法が主眼であり、その入り口での検査法として、あるいは急性増悪期の対症療法として、神経ブロックは捉えられるようになりました。また、従来のランドマーク法は様々な画像診断機器を積極的に活用するイメージガイド下神経ブロックに移行しつつあります。
 更に、疼痛治療が主体となる緩和診療も、ペインクリニックの一角として、麻酔科出身者の診療カテゴリーと捉えられるようになってきています。従来は、呼吸器内科や消化器外科などの緩和診療適用患者を多く抱える主治医科が担当することの多い診療カテゴリーでしたが、緩和診療では疼痛緩和が問題となることが多いことから、オピオイドを手術麻酔や術後鎮痛で頻用している麻酔科医にとって馴染みやすい領域と考えられるようになってきたのです。疼痛領域が限局している症例では、神経ブロックが奏功することも少なくなく、ペインクリニッシャンの新たな活躍の場となりつつあります。

 大学医学部の使命は、教育・研究・臨床ということになりますが、最近では、社会貢献活動や産学連携による製品開発など、より直接的な社会還元性も強調されるようになっています。そうしたなか、教育、研究、臨床の何れにおいても、すべてを自分のところで完結させるという風潮は薄れ、コラボレーションの重要性が指摘されています。
 群馬大学麻酔科は、以前から大学病院の中央部門としての特性を生かし、周辺領域との連携を強く意識してきました.そのおかげで、現在も、他部門との良好な関係を保ちつつ、建設的な緊張感を持って日々の仕事にあたる環境がよくできていると思います.手術の麻酔では、当然のことながら、執刀科や診断にあたった内科系各科との緊密な連携が必要です。また、ペインクリニックでも、例えば末梢循環障害に対する治療では、循環器内科、代謝内分泌内科、血液内科、整形外科、リハビリテーション科など、多数の院内各科と連携して治療にあたっています。研究活動でも、群馬大学麻酔科は他教室と比較して共同研究が多いと感じられます。群馬大学内ばかりでなく、他大学の研究室との共同研究も急速に増加してきました.今後もこの傾向は更に強まっていくと思われます。
 連携が可能であるということは、とりもなおさず、公開、評価に耐えうる業務内容であり、提供に値する技術を持っていることの証明と考えられます。常に自らの業務内容を厳しく評価し、その結果得られた成果は積極的に売り出すことによって、社会をリードする群馬大学麻酔科が維持できると考えています。こうした取り組み姿勢は高く評価されており、群馬大学麻酔科は首都圏および全国規模の学術集会を数多く主催しています。

 

これまでの主催学会

昭和42年 第 7回 日本麻酔学会 関東甲信越地方会(伊香保公民館)
昭和51年 第 2回 北関東麻酔科医会(群馬大学医学部)
昭和53年 第13回 日本高気圧環境医学会(群馬県民会館)
昭和57年 第29回 日本麻酔学会(群馬県民会館・前橋商工会議所)
昭和60年 第11回 北関東麻酔科医会(伊香保町産業会館)
平成 元年 第 8回 日本蘇生学会(前橋市民文化会館)
平成 3年 第25回 日本ペインクリニック学会(群馬県民会館・前橋商工会議所)
平成 5年 第 1回 日本集中治療医学会 関東甲信越地方会(大宮ソニックシティー)
平成 7年 第10回 日本Shock学会(アクトシティ浜松)
平成 8年 第23回 日本集中治療医学会(パシフィコ横浜)
平成10年 第32回 日本ペインクリニック学会(高崎シティーギャラリー・群馬音楽センター)
平成15年 第25回 日本麻酔薬理学会(大宮ソニックシティー)
平成22年 第30回 日本登山医学会(水上館)
平成24年 第 1回 北関東・甲信越ペインクリニック学会(大宮ソニックシティー)
平成24年 第21回 日本集中治療医学会 関東甲信越地方会(前橋市民文化会館)
平成25年 第17回 日本医療ガス学会(軽井沢万平ホテル)
平成27年 第 2回 日本区域麻酔学会(群馬パース大学高崎キャンパス)
平成30年 第22回 日本神経麻酔集中治療学会(高崎市総合保健センター)
令和 元年 第39回 日本臨床麻酔学会(プリンスグランドリゾート軽井沢)

これからの主催学会(予定)
令和 4年 第69回 日本麻酔科学会(神戸ポートピアホテル・神戸国際展示場・神戸国際会議場)

 

研究テーマの概略

昭和時代の主たる研究テーマ

 麻酔科学教室の研究主題は、侵襲に対する生体反応を解明し、侵襲に対する防御法を開発することです。この主題から派生したものには、高気圧酸素療法、疼痛管理、集中治療医学、救急医学などがあり、研究業績はこれらを含めた広範囲の領域に及んでいます。講座開設初期の研究テーマは、ほぼすべて、これらの課題と直接的にリンクしたものでした。

○ショックの病態生理学的解明

病因論としての補体、過酸化脂質、活性酸素、プロスタノイド、血流分布、心機能、ライソゾーム酵素の役割。薬物の作用機序からの病態論として、エストロゲン、糖質副腎皮質ホルモン、プロスタノイド、輸液剤の作用。

○ 侵襲とカテコールアミン、プロスタノイドの反応に関する研究

ドパミンと腎機能、ケタミンとカテコールアミンの代謝、腎循環に対するレニン・アンギオテンシン系とプロスタノイド系の影響、手術侵襲とプロスタグランデインの変動、脊髄液中のカテコールアミン濃度と脊髄麻酔。

○低血圧麻酔に関する研究

プロスタグランデインE1の臨床応用、二カルジピンと腎機能。

○麻酔薬の免疫系への作用に関する研究
○ペインクリニックに関する研究

末期癌に対する脳下垂体ブロックの除痛機構の機序と臨床応用、交感神経ブロックの四肢血流量への影響。

○高気圧酸素療法に関する研究

突発性難聴、バージャー氏病、一酸化炭素中毒に対する高気圧酸素療法。

○集中治療医学に関する研究

多臓器不全の病態生理と機序、右室機能と肺循環、ARDSの病態生理、人工呼吸方法論。

○白血球化学発光、細胞成長に関する基礎的研究

 こうした中からプロスタグランディンE1を応用した低血圧麻酔法を世界に先駆けて開発しました。また、独自の右室駆出率測定法による右室機能評価法も開発しています。これらは臨床面における世界に誇り得る研究成果となりました。

 

平成時代の主たる研究テーマ

 平成に入ると世界全体で神経科学に対する関心が高まり、麻酔科の研究も「麻酔のメカニズム」や「痛みのメカニズム」など、神経科学、脳科学と関連したテーマが中心となってきました。特に、慢性疼痛の発生メカニズムと鎮痛法の薬理学は群馬大学麻酔科の主要な研究テーマとなり、数々の注目度の高い成果を上げています。

○痛みのメカニズム研究

痛みのメカニズム解明と新しい疼痛治療法の開発、痛みと制御系、新しい慢性疼痛モデル動物の開発、痛みを受容する神経回路の解明(fMRI,MEG,PET,in vivo パッチクランプ等を用いて)。

○麻酔と神経生理・細胞生物研究

神経細胞・神経組織への麻酔薬の作用解析、電気生理学的アプローチを用いた揮発性麻酔薬の中枢神経介在ニューロンへの作用機構解析、神経細胞・神経組織への麻酔薬の作用解析、細胞生物学的アプローチを用いた局所麻酔薬の再生神経細胞への作用解析。

○循環制御系研究グループ

麻酔薬・重症病態の循環器系への作用解析、循環を制御する液性因子、CGRP、アドレノメデュリン等の作用解析、循環不全と脳循環の相関解明。

○臨床研究テーマ

新しい神経ブロック手技(CT-guide block,epiduroscopy)を用いた治療法の開発、神経ブロック、高気圧酸素治療、血管新生治療法を併用した重症四肢血流障害の治療。各種の徐放性鎮痛薬の開発。

 

麻酔科を取り巻く社会的状況

 日本医療界の中での差し迫った問題として、過疎地や過疎地を多く抱える自治体の医師不足や、産婦人科、小児科、麻酔科、その他の急性期対応科の疲弊などがクローズアップされています。麻酔科をはじめ急性期医療に従事する医師の苦悩の一つは、昨今の過誤に対する猛烈な糾弾にあります。ヒューマンエラーは止むなきもので、体制でカバーすべきものと広報はされていますが、現実には個人攻撃的な報道が後を絶ちません。勤務体制上の困窮度はほとんど無視されており、整備のための方策はやっと手をつけられはじめた段階です。また、こうした職場では、業務量の調整や時間振り分けを自ら行うことが困難であることが、更に、勤務者の疲弊感を募らせています。
 これらを麻酔科独自の問題とすることなく、同じ悩みを持つ医師・コメディカルの人達との共通の課題として、協調して問題解決への歩みを進める必要があります。また、一人一人の麻酔科医自身は、きちんとした技術や知識を修得・維持し、社会的信用を失わないように慎重に行動することが求められています。群馬大学麻酔科のメンバーは、技術者としての技能の修練、仕事に対する誇り、チーム医療の担い手としての礼儀などを忘れることなく、日々業務改善のために精進しています。

 

今後について

 

 侵襲度の大きな手術にも耐えうる生体管理技術の開発と、そのための基礎的研究、侵襲に対する生体反応の一層の解明などが今後の研究課題となるでしょう。このためには、従来の研究手法に加えて、新たな方法論の導入も必要となります。また、円熟した全人的医療の実践者として、術後患者の痛みや、がん患者、慢性疼痛患者の痛みの解決を目指すことも欠かせません。呼吸・循環を中心とした最先端の治療手技を集約・駆使して、クリティカルな病態を乗り切るという麻酔・蘇生学の特質を世界の最先端のレベルでリードし、あわせて、疼痛の克服等のテーマを自由・闊達な雰囲気の中で研究し解決していけるよう、教室員一同志を高くして日々研鑽に励んで参ります。
 そして、講座開設以来ずっと必須の事項として努力しているのは、人材確保と専門医教育の充実です。武田信玄の例えのとおり、人は石垣、人は城、人材無くして組織は成り立ちません。意欲あふれる若い人材の確保とその育成こそが教室発展の礎であることに今後も変わりはないでしょう。

 

昭和50年代の教室勉強会

昭和50年代の教室勉強会

平成24年の教室勉強会後集合写真

平成24年の教室勉強会後集合写真

昭和 50 年代の麻酔風景

昭和 50 年代の麻酔風景

平成 24 年の麻酔風景

平成 24 年の麻酔風景

昭和 50 年代の神経ブロック

昭和 50 年代の神経ブロック

平成 24 年の神経ブロック

平成 24 年の神経ブロック